複数恋愛

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エピローグ



年代物のスピーカーから耳ざわりの良いジャズが流れる『UNCOUNTABLE』の店内。
奥から、尚宏、光、礼二の順でカウンターに並んでいる。

「尚宏はすっかりこの店の主みたいだな」

本来の主である礼二が茶化すように言う。

「ほとんど毎晩いるからね」

答えながらカウンターの向こうに笑みを向ける尚宏。

「尚宏をここへ連れてきてよかったよ」

少し酔いのまわった頬を手のひらで冷ましながら光が言う。

「ほんとにな……」

恋人に同意した礼二は、何かを思い出すように遠くを見つめていた。

「雅人、元気かな」

誰もが考えていたことを言葉にしたのは、やはり光だった。



あれから2年が経った。
光の実家へ、イタリアからのエアメールが届いたのは3ヶ月前のこと。
こんなに時間が経過してもきちんと約束を守るところが雅人らしいと、そのころすでにこうして会うようになっていた3人はそろって安堵した。

「僕、年末の休みに会いに行ってくるよ」

尚宏が明るく言い、カウンターの向こうのバーテンダーと目配せをした。
察したふたりも顔を見合わせ、それから光が目を細めながらつぶやいた。

「あのマグカップ、まだ持ってるかな……」




END






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