ムーンライト パレード

07


荷物を全部浜へ運び終わると、鈴城先輩と叔父さんは、じゃあ明日の夕方迎えに来るわ、と帰っていった。
無人島に取り残される。明日の夕方までは帰る手段がないってことに、ワクワクした。
俺ってスリルを楽しむタイプなんだな。

「みんなー、暑くなる前にいろいろ準備やっちまうぞ!」

今橋がさっそく仕切り始めた。本当に部長に適役だ。
俺なんか即泳ぎに行こうとしてたのに。

テントは4、5人用のでかいのを2基、2、3人用のを1基立てた。
小さい方は、顧問の倉本先生用だ。クーラーボックスにビールをたくさん入れてきてるらしく、夜は一人で宴会するつもりみたいだ。
俺らは一応未成年なんで、キャンプ中、その辺は我慢だ。
でかいテントは必然的に学年別に分かれた。
俺ら2年4人と、1年プラス中3で4人。テントサイズはピッタリだ。

テントに各自の荷物を運び終わると、次は飯炊き場だ。キャンプ場みたいにレンガのかまどが準備されてるわけもなく。海から適当な石を拾ってきてかまどらしきものを作り、小枝を拾ってきて燃料にする。
別部隊は、トイレを掘りに行った。専用のテントなんてないが、森の中の少し奥まったところに作ればかまわないだろう。野郎ばっかだし。
飯田以外は毎年の経験者なので、準備は着々と進んだ。これどうしたらいいの?とか聞きながら手伝っていたので、飯田も足手まといにはなってなかった。

「よーし、だいたい終わったな。じゃあ、あとは自由!泳ぎたいやつは泳いで来いよ。他は海辺を歩くなり、釣りするなり好きにして良いぞ」

今橋の声に、みんな一斉に腰をあげた。

「……4時には帰って来いよー!飯の仕度あるからな!」

昼飯は、各自コンビニで買ってきたサンドイッチなんかを勝手に食べる。
もちろん、クーラーボックスに入れてある。この暑さじゃ、食料は外に出してたら一発アウトだ。

「飯田、泳ごうぜっ」

弾んだ声であいつを誘った。

「テントで着替えてくる、待ってろよ」

苦笑しながら、飯田が言った。
すでに朝からズボン代わりに海パンを仕込んでやる気満々だった俺は、Tシャツをガバッと脱ぐだけだったのだ。

「おまたせー」

海パン一丁になった飯田は、相変わらずイケていた。
運動部でもないのに、ほどよくついた筋肉に長い足。こりゃ海水浴場行ってたら、ナンパする気なくても逆ナンでウハウハだな。
生憎ここは無人島。水着ギャルはいない。

「お前、脱いでもイケてんなー」

夏空の下開放的になった俺は、正直な感想を口にした。

「……脱いでもって。なんかやらしーな。てかお前も意外と……」
「どーせひょろいとか思ってんだろっ!」
「……いや、バランス良くてキレーな身体してる」

「……っ!」

それってどうなんだよ?

「……きれいとか……ありえねぇ」

照れ隠しにそう呟くと、俺は海に向かって走った。

今年初めての海!
しかも無人島だから、プライベートビーチだ。
整備された海水浴場じゃないので、浅瀬は岩もゴツゴツしてるし海草も絡まってくるけど。それでも、最初に潜るときのひんやりした感覚は最高だ。
ひと潜りひと泳ぎしてから、俺はようやく思い出して飯田を探した。

「おーい。こっち、深くて泳げるぞっ」

砂浜近くの浅瀬にその姿を見つけて、叫ぶ。

「わかった!行くから待ってろよー」

しばらくバシャバシャと水を跳ね上げながら歩いて進み、それから飯田はきれいなフォームで泳いでこちらへ向かってきた。

「……水泳やってた?」

水中でもイケメンな飯田に聞いてみる。

「ん、小学校までな。中学からはバスケ」

なるほど。基本はしっかりしてるってことか。身体つきが完全な逆三角形ってこともないから、現役で水泳やってるんじゃないのはなんとなくわかる。

……てか、身体つきって。
急に海パン一丁の飯田を意識してしまって、顔が熱くなってきた。
海に潜ってクールダウンだ!

「なにやってんの?」

飯田に笑われた。

「……ちょっと潜りたかったんだよっ」
「な、お前も泳げんならあっちの岩まで泳いで行こうぜ」

少し遠くに見える砂浜から続く突き出た岩場の方を、飯田が指差して言った。

「っぷはーっ」

ひと泳ぎして岩場にたどり着く。

「ほら」

先に岩場に上がった飯田が、手を差し伸べている。
手……、握んのか。
少し躊躇したが意識してることを悟られたくなくて、素直に手を伸ばした。

「……プッ。しわしわー」
「えっ?」

俺が一人で照れていると、思わぬ反応が返ってきた。

「海に長いこと浸かってると、手とか足とかしわしわになるよな」

ふわっと飯田が言って、そのいつもの調子に俺も思わず笑ってしまった。

それからしばらく、岩場の上で他愛もないことをしゃべり、話が尽きたらあちぃなーとか言いつつ。
いよいよ暑くなってきたので、海に飛び込んだ。さすがに無人島で熱中症にはなりたくない。
なんだかんだ遊んでると、気付けば太陽はてっぺんをかなり過ぎていた。

「飯食おーぜ」

俺たちはびしゃびしゃのまま、日よけテントの張ってある場所まで上がった。
この暑さだ。すぐに乾くだろう。

サンドイッチをあっという間に食べてしまい水分補給してると、水に入ったあとのダルさから眠くなってくる。すでに日よけテントの下、影になってる一角にゴザを敷いて、佐川がイビキをかいていた。

「気持ちよさそーだな。ゴザ、まだあんのかな」

飯田がうらやましそうに言う。

「4枚は持ってきてるはずだから、向こうの先生テントの辺にあるかも」
「……取ってくるわ」

飯田は昼寝するつもりみたいだ。
俺はひと休みしたらもうひと泳ぎしてこようと考えていた。
大好きな海だ。満喫しない手はない。

仰向けで浮かび、波間に漂う。
太陽が眩しいので、目は閉じてただ流されるままに。目を閉じていても、瞼の裏がオレンジ色だ。

「夏だな……」

海を感じて頭の中を真っ白にすると、自分が地球の一部になったような気がする。
雄大な母なる海。まさにそんな感じだ。
耳の辺りでは、コポコポと水の音が心地よい。
このまま眠りたいな……。そういうわけにもいかないが。

一人で海を満喫していると、時間はあっという間に過ぎていったようだ。
気がつくと太陽はかなり落ちてきていて、浜辺から飯田が手を振りながら叫んでいた。

「いつまで漂流してんだー。上がって来いよー」



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