ナイト アンド ミュージック

02


2.ジン アンド ミュージック


店から俺のアパートまでは、地下鉄で15分ほど。
終電過ぎたらタクシーだが、今晩は早めに出たのでまだ動いている。
途中のコンビニで、パックのグレープフルーツジュースとサンドイッチを買った。
ビニール袋をしゃかしゃかいわせながら、大きめに手を振って歩く。

「ミツ、楽しそうだな。酔ってんの?」
「んーにゃ。なんとなく、動きたくて」
「踊ればよかったのに……」

カナタがため息をつく。

コンビニから5分でアパートに着いた。
カナタがポケットを探り、イルカのキーホルダーがついた鍵を取り出す。
……俺の部屋なのに。

合鍵は、出会って1ヶ月で渡していた。
カナタを信用してるとか、これからも彼女つくらない自信があるとか、そんなことは考えなかった。
なんとなく、当然のように合鍵を作って渡した。それだけだ。

「カナタ、汗かいてんだろ。先風呂入る?」

踊ってたしな、と思いながら聞く。

「そうする。ありがと」

カナタが風呂場に消えるのを見送ってから、俺はビニール袋の中身を冷蔵庫に突っ込む。
あまり料理もしないので、中は飲み物だらけだ。飲みかけのペットボトルの水が、何本かある。
明日こそ処分しなきゃな……。

タバコをくわえながら、換気扇の下に立った。
自分の部屋だが、必要以上にタバコ臭くなるのが嫌で、換気扇の下で吸うようにしていた。

カナタが上がったあと、俺もシャワーを浴びた。
頭をタオルで乾かしながら、しばらく無言でテレビを眺める。
テレビの前に座る、カナタの後ろ姿に目がいく。茶色い髪が、湿っていつもより黒っぽく見える。

「もすこし乾かせよな……」

手ぐしですきながら乾かしてやると、カナタが猫のように目を細めた。

「頭触られんの、きもちいー」

感想まで猫みたいだ。

「……かわいーやつ。ゴロゴロ言わせてやろうか?」

喉元をくすぐろうとすると、逃げられた。

形ばかりのキッチンに行き、ジンのボトルを手に取る。中身が半分弱あるのを確認し、安心してから冷蔵庫を開ける。
さっき買った、パックのグレープフルーツジュースを開ける。開け口がうまく剥がれず、ちぎれてしまった。
こぼさないように気をつけなきゃな……と、口に出たかもしれないが、気にせずグラスを2つ取りだす。

「開封失敗ー?」

やっぱ、口に出てたか……。

「うんーでも大丈夫ー」

間延びした返事をしながら、ジンとジュースをマドラーで撹拌する。
器具はちゃんとしてるが、分量は適当だ。

グラスを持って、カナタの待つ部屋へ行き、グラスを置いてから、レコードの棚に向かう。

「俺のでいい?」

暗黙のルールで、BGMの選曲は交代ですることになっている。
外が暑いので、どうしても涼しげなジャズ系に手が伸びる。

カナタがテレビを消した。
俺はベッドに、カナタは床に座って、ジンを舐めながら、音楽を聞く。
しっとりした、ジャズボーカルに、聞き入っていると、軽く酔いが回ってくるのを感じた。

「俺、寝るわ」

ベッドから立ち上がり、グラスをテーブルに置く。
再びベッドに戻ると、そのまま横になった。

夏は布団がいらなくて便利だ。
少しうとうとしてきたところで、部屋の電気が消えた。
光の反転でやや覚醒し、あぁカナタも寝るのかな…と考え、壁側を向いて少し端に寄る。

セミダブルのベッドは、二人で寝るには狭い。
ギシ…とスプリングが鳴り、身体の右側に人の体温を感じた。

音楽はまだ、小さいボリュームで流れている。

「……ミツ、寝た?」

カナタの問いかけに、俺は答えない。
ここから先の俺たちに、言葉は不要だ。
背中にゆっくり回る腕に手を伸ばし、返事の代わりにする。
ギュッと抱き締められると、いつもなぜか安心した。

カナタの腕の力が少し弱まったところで身じろぎをし、身体の向きを変える。
しばらく抱き合い、お互いの心臓の音を聴く。
刻むリズムは流れるBGMにぴったりと合っていて、俺は気分が良くなった。

顔を上げて、相手の唇を探す。
どちらからともなく唇が触れ合い、ついばみ、徐々に深くなってゆく。
カナタが俺の唇を割り、舌を滑りこませてきた。俺の舌も、すぐに応える。

「……ふっ……あっ……」

音楽にかき消されきれない水音に、顔が熱くなる。
キスだけでこんなに興奮するなんて、俺はカナタで初めて知った。

カナタの舌先は上から下に向かって歯列をなぞり、なぞり終わると、今度は舌を絡めとる。
口の端からこぼれるのは、どちらの唾液か、もうわからない。
激しいキスの間、お互いの背をまさぐり合う。
普段冷めている自分に、こんな情熱があるなんて、知らなかった。

カナタの舌が、口腔内から出ていくと、俺は名残惜しさに唇を追った。
軽いキスを交わしながら、お互いの服を脱がしてゆく。
一糸まとわぬ姿で抱き合うと、じわっと温もりが広がり、幸せな気分になる。

しばらくじっと抱き合ってから、カナタが俺のモノに手を伸ばした。
カナタの手は、ゆっくりじっくりと俺を追い上げてゆく。

「……はっ……はぁっん……」

……ヤバい。いきそ。
慌てて俺も、カナタのモノを握ると、すでに硬く立ち上がったその先は、しっとりと濡れていた。

濃厚なキスを交わしながら、お互いのモノをしごきあう。
キスの合間にふと目が合うと、カナタはニヤリと笑い、唇を放した。

そのまま、カナタの唇は、首筋、鎖骨と下におりてゆく。
ピリッとした刺激を感じ、胸の先端を吸われたのが分かった。

「やっ……あっ……やんっ」

舌先で転がされ、潰され、その刺激にも興奮させられる。
左右均等に丁寧に愛撫された後、唇は腹部をおりてゆく。

行き着く先は、一つ。
次にされることへの期待に、俺はさらに興奮した。

カナタの荒い息づかいを、下腹部に感じた、と思ったら、俺のモノが温かく湿ったものに包まれた。
女の子にされたことはあるが、カナタのはなんていうか、凄い。男だから、そっちの力も強いんだろうか。

双球をもまれながら、先端を吸われ、俺はのけぞった。
……限界。

カナタの下でいいようにされていたが、そろそろ反撃しないとイってしまう。
なんとか体勢を整え、カナタの頭を引き離すと、俺は身体を上下反転させた。
いわゆるシックスナインの体制をとる。

ここからが俺の逆襲。
……良すぎて泣かせてやる。

中性的な顔立ちに似合わず、カナタのはデカイ。
俺のをしゃぶってるだけで、こんなに興奮してくれてるんだと思うと、ジワリと嬉しい。

口を大きく開け、カリの部分にパクりと食いつく。そのまま、歯を立てないよう唇ではむはむする。ビロードのような質感で滑らかなそこに思わず吸い付くと、カナタがうめいた。
後は、定石どおり、根元付近を手でしごきながら、なるべく深くまでくわえ、吸い込み、頭を上下させる。ジュボッジュボッと大きな音を立てて。

カナタの口は、完全におろそかになっていて、俺の分身がその荒い息づかいを感じていた。
カナタが気持ちよさそうなので、さらに緩急つけて攻めてみることにする。
くわえていたモノを一旦放し、サオに沿って舌先でたどってゆく。
今度は手でしごきながら、双球を口の中で転がす。

「……んっ……はぁんっ……」

カナタの口から可愛い喘ぎが聞こえた。
双球の下、縫い目の部分を舌でなぞると、カナタがぶるっと震えて俺の頭を押さえた。
そのままカナタの方を見上げると、濡れた瞳と目が合った。
残念、泣かせるまであと一息だったか……。

訴えかけるような眼差しが、限界が近いことを知らせている。
俺は頭を上げ、身体を反転させてカナタと向き合った。
最後は一緒に、が暗黙のルールだ。

俺の目を見つめたカナタが、たまらないと言ったように唇に食いついてくる。
下腹部では、カナタの手が、俺のと自分のをまとめて握り、激しくしごき始めた。

「……はぁっ……あぁっんっ……はっ」
「……あっ……んっ」

お互いに吸われ過ぎた唇からは唾液があふれ、キスの合間に喘ぎがもれる。
激しく上下するカナタの手にお互いの先走りがまとわりつき、いやらしい水音が立った。

めちゃくちゃ気持ちいい。

「やっ……はっ……もぅっ」

俺が行為の中で初めて発する言葉らしきものは、限界を告げるものだった。
カナタの目を見ると、頷きで返された。同様に、限界らしい。

「……んっ」
「くっ……」

凄い快感の中、頭の中が真っ白になり、弾けた。

二人分の体液を無言で処理し、カナタがキッチンに向かった。
冷蔵庫を開ける音がして、光が漏れる。
ペットボトルの水を煽る、カナタの後ろ姿を眺めた。

……彫刻みたい。
少し痩せすぎな感はあるが、小さめの頭、肩幅とのバランス、長い手足は、さながら美術品のようだ。
水を飲むと、喉仏がコクコクと上下する。その喉の流れるラインが色っぽい。

空のペットボトルを流しに置くと、カナタが戻ってきた。
俺は壁際に寄り、背中を見せる。
カナタが、無言で隣に寝転がったのを感じ、一応言ってみる。

「……おやすみ」
「ん」

俺たちに、余計な言葉はいらない。

カナタは、どのボトルを空けたのだろう?
どれが新しいか、把握しているのだろうか。



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